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第三回 青猫堂セミナー 2024年7月28日


2024年の盛夏、7月28日に滋賀県長浜市で3回目の「青貓堂セミナー」を開講しました。
今回の題材はロラン・バルト。20世紀フランスの記号学者・批評家・哲学者で、1915年、フランス、ノルマンディー半島の港湾都市シェルブールに生まれ、
1980年にパリで亡くなりました。今福龍太氏によるトークではバルトの遺著となった写真論『明るい部屋──写真についての覚書』を主にとりあげ、
この本との出会いをめぐる印象的なヨーロッパの旅の話からはじまりました。

わたしにとってこの本は、複雑な文体でなかなかハードルの高い本でしたが、
原書も日本語の翻訳本も、どちらも銀色に輝く素敵な顔(装幀)をしているので、いつも気になる本でした。
写真というものの生成から考えると、龍太氏が『書物変身譚』のなかで語っていた謎でもありますが、一般的に暗箱や暗室を想像するので、
「暗い」というイメージがまず思い浮かぶのですが、バルトの本は全く逆に「明るい部屋」となっていて、この逆説的なタイトルからして、とても魅力的です。
勝手な解釈をすると、ピンホールからもれる光が明るい部屋を照らし出すというようなイメージが生まれてきました。

『明るい部屋』から抜粋された文章を今回の冊子にのせましたが、この抜粋を読み進めることで少しづつ全体を読めてくるように感じました。
バルトのいう「記述の隙間」があちこちにある──文字の痕跡や書かれえない影を感じとり、
作者が主体的に「書く」ことの自己中心主義から遠ざかった覚書(ノート)というスタイルにこだわることで、
微細な感覚を研ぎ澄ますことがバルトにとっての書く行為だったのだろうと思いました。
バルトは没後に日記が出版されていますが、このバルトの日記は「書くこと」の私性と、
それが「私」を超えてゆく神秘的思考であるという、バルトの思想の根幹を語るテキストだと気付かされます。

隙間を読むという行為にはほんとうに細やかな心持ちが必要です。
現代を生きる私たちからどんどんと奪われていく感覚でしょうか。
「よむ」とは、本を読むことだけではない、雲をよむ、風をよむ、波をよむ、いろいろなものへの細やかな反応のことです。
そう、人間は昔から住んでいる土地の気象においても、さまざまな自然の変化を「よんで」きたのです。
バルトが、自分の故郷バイヨンヌの繊細な気候を語った「微気象」について最後に語った龍太氏の語りは、
日常と世界を結んで細やかな「よみ」を試みようとした新著『霧のコミューン』の精神と響き合うようでした。


 2024年の盛夏、7月28日に滋賀県長浜市で3回目の「青貓堂セミナー」を開講しました。
 今回の題材はロラン・バルト。20世紀フランスの記号学者・批評家・哲学者で、1915年、フランス、ノルマンディー半島の港湾都市シェルブールに生まれ、1980年にパリで亡くなりました。今福龍太氏によるトークではバルトの遺著となった写真論『明るい部屋──写真についての覚書』を主にとりあげ、この本との出会いをめぐる印象的なヨーロッパの旅の話からはじまりました。

 わたしにとってこの本は、複雑な文体でなかなかハードルの高い本でしたが、原書も日本語の翻訳本も、どちらも銀色に輝く素敵な顔(装幀)をしているので、いつも気になる本でした。写真というものの生成から考えると、龍太氏が『書物変身譚』のなかで語っていた謎でもありますが、一般的に暗箱や暗室を想像するので、「暗い」というイメージがまず思い浮かぶのですが、バルトの本は全く逆に「明るい部屋」となっていて、この逆説的なタイトルからして、とても魅力的です。勝手な解釈をすると、ピンホールからもれる光が明るい部屋を照らし出すというようなイメージが生まれてきました。

 『明るい部屋』から抜粋された文章を今回の冊子にのせましたが、この抜粋を読み進めることで少しづつ全体を読めてくるように感じました。バルトのいう「記述の隙間」があちこちにある──文字の痕跡や書かれえない影を感じとり、作者が主体的に「書く」ことの自己中心主義から遠ざかった覚書(ノート)というスタイルにこだわることで、微細な感覚を研ぎ澄ますことがバルトにとっての書く行為だったのだろうと思いました。バルトは没後に日記が出版されていますが、このバルトの日記は「書くこと」の私性と、それが「私」を超えてゆく神秘的思考であるという、バルトの思想の根幹を語るテキストだと気付かされます。

 隙間を読むという行為にはほんとうに細やかな心持ちが必要です。現代を生きる私たちからどんどんと奪われていく感覚でしょうか。「よむ」とは、本を読むことだけではない、雲をよむ、風をよむ、波をよむ、いろいろなものへの細やかな反応のことです。そう、人間は昔から住んでいる土地の気象においても、さまざまな自然の変化を「よんで」きたのです。バルトが、自分の故郷バイヨンヌの繊細な気候を語った「微気象」について最後に語った龍太氏の語りは、日常と世界を結んで細やかな「よみ」を試みようとした新著『霧のコミューン』の精神と響き合うようでした。


◆参加者のお一人、阿曽祐子さんによる興味深いセミナー報告記はここ(《週刊エディスト》)で読めます!
>>>第三回青猫堂セミナーの概要(Gato Azul制作)

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⇧琵琶湖の岸辺はハスの花の群落が美しかった。

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