Home > Library >Abebe no Nekoyanagi

 





    
草野心平『アベベの猫柳』1970年 青蛾書房 特装版

福島県いわき市に、「草野心平記念文学館」での講演会に立ち会うためにやって来た。「宮澤賢治 〈土〉と〈水〉と〈風〉と暮らすこと」という演題で龍太さんが講演をした。草野心平は宮沢賢治の詩集『春と修羅』の価値を誰よりも早く認めた人だ。賢治とは文通による交流もあり、同じ世界観を持ち合わせていたように思う。この時点で、わたしにとって草野心平という詩人の作品は一度も読んだことがなかったけれど、文学館で見た著書のリストをみて、1冊の本が無性に気になった。

               *

その本のタイトルは『アベベの猫柳』。短いエッセイを集めた随想集。このタイトルからして、アベベはマラソンのアベベだろう・・・と思った。猫柳は植物のねこやなぎに決まっているのに、なぜか猫好きなだけに”猫”という字に弱い自分はこの本の中身がとても知りたくなった。

               *

翌日、川内村の山のなかにある「草野心平資料館」を訪れた時に、まっさきに『アベベの猫柳』を探してみた。だが展示を一度見ただけでは見つからず、資料館にいる女性に尋ねてみたが、彼女もどのような本か把握しておらず、要領をえない返事だった。この本は100部限定の凝った布帙入りの貴重な本である。もういちど見回したところ、目の前のガラス越しに並んでいるではないか! 外観はなかなか素敵な本だった。この本は1970年に布帙入で100部限定、箱入りで1000部出版され、装幀は串田孫一、なかには心平さんによる絵も16点ちりばめられている。ガラス越しで手にすることができず、とても残念な気持ちが残った。「どんな内容の本なのだろう?」

                *

資料館をでて、山をすこし登ると、心平の別荘だった「天山文庫」の茅葺きの家がある。ここには、心平が村に寄贈した本が残されており、村の人々との親交が厚かったことがわかる。たくさんの人から愛されていたんだなぁ・・・。

                *

帰宅して、『アベベの猫柳』の特装版を古本屋で探し、手に入れることができた。草野心平という人物とは不思議な縁を一方的に感じている。中国に留学していた時代に発行された同人誌の名前が「銅鑼」。わたしの猫の名前もドラ。とても気になった『アベベの猫柳』の発行年がわたしの生年と同じ年。アベベは飼っていた真鯉の名で、その鯉が死んで埋葬した土に挿した猫柳の枝が根を生やしてたくましく成長したという話で「猫」とはなんの関係もなかったが、そのすれ違いもなぜか楽しかった。心平さんも宮沢賢治や中原中也が好き。すべてのものと共に生きるという考え方も共感できる。楽天的に生きた彼の詩の世界観を楽しみながら、これからの日々をより面白くしていこうと思った。(A)

心平さんは蛙だけでなく猫も犬も好きだったようです・・・