Home > Travelogue >Kuuru 日本語 / English






    
Akiko Imafuku
2019年5月、わたしは友人のブラジル日系三世のシルヴィアさんと南風原文化センターの平良次子さんに同行し、沖縄の工芸をめぐる旅をしました。なかでも西表島の西部にある紅露(くーる)工房はとても興味深い場所でした。紅露工房は竹富島出身の石垣昭子さんと西表島の石垣金星さんが、島の伝統的な暮らしを大切にしながら、生活と生産の場を少しずつ自分たちのペースで切り開くことで生まれた染織工房です。

               *

石垣昭子さんは京都の染色家・志村ふくみさんのところで染色の基礎を学び、その後沖縄にもどり西表島の金星さんと紅露工房をつくります。竹富島から西表島に移ることにより、繊維素材を根本から見直す必要が生まれ、西表の風土に合う糸芭蕉を復活させることからはじめました。島には、かつて糸を採るために栽培されその後放置された糸芭蕉があちこちに生えていたのです。この、芭蕉布の伝統が途絶えてしまっていた島に、戦後沖縄本島の喜如嘉で芭蕉布を復活させていた平良敏子さんを招き、芭蕉の仕事について一から教えてもらい、そこから、紅露工房でのオリジナルな糸作りがはじまります。

               *

西表の地形は山があり水が豊富な島で、平地は海沿いの一部分だけ、ほとんどが亜熱帯林の繁る山です。工房の海よりの場所には田畑をつくり、金星さんが無農薬の赤米を作り、畑では糸芭蕉や桑を育て、工房の庭や裏山で染料植物を栽培し、周囲の山に自生する紅露(ソメモノイモ)や近くの谷の水辺で琉球藍を採集しています。金星さんと一緒に山をあるき、最近植えたというコーヒーの樹も見せてもらいました。台風に負けないように森の木々の隙間に上手に植えられていました。このあたりも島の風土を知り尽くしたこまやかな配慮です。いつかこの樹々からとられた豆で淹れたコーヒーを飲んでみたいものです。水は山から引いているため、きっと特別に美味しいコーヒーになるでしょう。この水は、紅露工房の布の鮮やかな発色にも貢献していることはいうまでもありません。

               *
         
石垣昭子さんはこんなことを話してくれました。
西表で暮らすということ・・・。それは自然と共生し、風と話すこと。山に入って猪を獲り、海に入って魚を捕り、マツリゴトをすること。自然のあちこちにちゃんとストックがあるので、そのストックを壊さないように、生きるために「必要な分」だけ採ること・・・。
日々の暮らしを大切にしている姿がとてもすばらしいと感じました。
(参考文献 石垣昭子+山本眞人『西表島 紅露工房シンフォニー』地湧社, 2019)

紅露工房 https://kuurukoubou.wixsite.com/iriomote/about