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Akiko Imafuku
湖北の伝承の技をもとめて、祖母の家がある長浜にやってきました。長浜にはむかしから「浜ちりめん」とよばれる絹織物があり、表面にシボ(凸凹)があるのが特徴でとてもやわらかく肌触りもやさしい素材です。今回はこれまでわたしが知らなかった近江上布とよばれる麻の生地をもとめ湖東にある愛荘町へ足をのばしました。

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朝の琵琶湖は美しく光っています。けれど湖面は例年より30センチも低いということです。雨がきわめて少ないためで、気候変動とも関係するのかもしれません。長浜から車で琵琶湖畔の「せせらぎ街道」を南下すること50分ほど、愛知川(えちがわ)に沿って、愛荘町へと向かいます。思っていたより大きな川幅をもつ愛知川の流れはところどころゆるやかに蛇行し、川岸にはシラサギが休んでいました。旧中山道を横切ると近江上布伝統産業会館に到着します。

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「ゆめまちテラスえち」と名づけられたこの場所は、約100年前の大正11年に建てられた旧愛知郡役所を平成30年までかけて保存工事をほどこし、伝承の技を伝える近江上布伝統産業会館に改装したものです。趣きのある洋館で目を惹きました。鈴鹿山系から流れ出し、この湖東一帯を潤わせる愛知川の清流こそ、近江上布の美しさの源なのです。

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現在ここで織られている麻糸の種類は幾つかあるのですが、大別するとヘンプ(大麻)、ラミー(芋麻)、リネン(亜麻)の三種です。この地域では古くから大麻(おおあさ)の栽培が盛んなことから、手績みの大麻と苧麻(ちょま)によって織られたものが近江上布とよばれています。京都から技術者がはいり、近江独特の櫛押し捺染という技術が生まれました。ほかに近江の麻にシボを手もみ仕上げする技術は「近江ちぢみ」とよばれ独特の手触りです。

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会館のショップには織り機が展示され、色とりどりの麻の反物が並んでいました。朱、藍、紫、緋色、鴇色・・・。自然物の色を映す繊細な印象です。近江ちぢみの黒いストールはとても涼しそうな感触で、職人の手の感覚がそのまま身につける者の皮膚に移されるような錯覚を覚えるほどでした。

近江上布伝統産業会館 https://omi-jofu.com