「たぬき」の焼き物で知られる陶器の町・信楽を訪ねると、意外なものに出会いました。岡本太郎さんの「座ることを拒否する椅子」です。いままで、青山の岡本太郎記念館や川崎の岡本太郎美術館で何度も見てきた作品で、いつも笑が込み上げ、ちょっと座ってみたくなる作品でした。ですが、まさかこのTARO的前衛芸術の皮肉とユーモアを代表する作品に、信楽で再会するとは!
*
そう、じつは太郎さんと信楽焼には深い関係があったのです。岡本太郎はこう書いていました。
*
信楽の静かに空けた空間には
古代からの香り高い生活の響きが生きている
ここの焼きものも その素朴な感情
そして堅牢な味わいに 歴史の深みを感じさせる
私は紫香楽の宮の跡で
日をあびて寝ころびながら
よく感動にたえぬ思いにとらわれる
時代はどんどん進展して行く
この古びた窯の町も
現代的生産に脱皮して行かなければならないだろう
伝統のあるところこそ難しい
町の人も勿論だが 信楽を愛する外部の人間が
一緒に力をあわせて
この町の魅力を生かして行きたいものだ
(岡本太郎『SHIGARAKI土の秘境信楽』信楽町(1968))
*
太陽の塔の背面のレリーフ「黒い太陽」は直径8メートルという巨大な作品です。そしてこれは、信楽焼の黒色陶器をタイル貼付の方法で組み込んで造られていました。この作品以前に、1964年に高島屋での展示会で発表されたのが「座ることを拒否する椅子」でした。岡本太郎が信楽焼の技術を用いて作品をつくるようになったのは、信楽の近江化学陶器・奥田七郎氏との出会いがはじまりのようです。長い伝統を誇る信楽焼の技術が、現代のアバンギャルド芸術の作風を支えていたというのも、時空を超えて生きたTAROらしいエピソードではないでしょうか。