Moon of Turquoise

リフォルニアからブラジル経由で、 Happy New Yearと書かれた月遅れの年賀カードが届きました。 CafeCreoleの定期執筆者Karen Tei Yamashitaとその夫 Ronaldo Lopes de Oliveiraからです。 カードの表には、Ronaldo独特の、 昆虫か怪獣かわからぬ 不思議な象形文字のようでもある細密画がいくつも描かれ、 それぞれに通し番号がふってあります。

レンダーのつもりでしょうか。 けれどここには11の図形しかありません。

えば、触ることの快楽を私たちの社会はひたすら禁欲してこなかったでしょうか。 今日、新雪に埋もれた美術館で、砂澤ビッキ(優れたアイヌの造形芸術家です)の木工作品に出逢いました。 トンボのような目玉をし、熊のように立ちはだかり、蝦夷松の肌をした巨人でした。 4歳になる吾が娘が、目を輝かせてすぐさまそれに触り、撫でまわしていえると、どこからか「作品に手を触れないで」と注意を促す女性の声が聞こえました。

ラジル的奇想においては、一年は11ヶ月であるとでもいうのか、それとも、月遅れの賀状には1月がすでに不必要となったためなのか? いかにもRonaldoらしい機知にとんだ謎かけではあります。

CafeCreoleのリニューアルは鋭意進行中で、まもなくメニューに見合う内容が整備されてゆくはず。その新メニューのなかで、私たちの味覚と嗅覚を刺激すべく設けられたサイト「cybercreole cuisine」の表紙画をRonaldoが描いてくれました。
cybercreole cuisine drawing はしょげ、それからはただ「触れるおみせへ行こう」と叫びつづけました。お高くとまった美術館ではない、この世界のどこかに、なんでも「触る」ことのできるお店がかならずあると彼女は信じているのです。正しい信念です。
帯果実と熱帯植物の氾濫を誰もがここに直感し、熟れたマンゴーやパイナップルの芳香、あるいはヌラリと喉に吸い込まれてゆくアヴォカドの柔らかな舌触りを想像することができるでしょう。サイバー空間において給仕されたいかなる食物も、結局はこの私たちの生身の身体感覚が生きるリアルな場へと引きずりだされ、触り、嗅ぎ、味わい尽くされるべきであると私は考えています。そうした現実界との接触への誘惑をどれだけ仕組むことができるか、これこそがcubercreole cuisineという新サイトの隠れた意図でもあります。 1999年の最後の月をあらわしているかに見える、Ronaldoの暦の最後の怪獣のような図形も、巨大な犬のような、馬のような、あるいは密林を徘徊するジャガーのような不思議なかたちをして、私たちを舌なめずりしそうに見えます。

ッキ(アイヌ語でカエルのことです)が巨木から掘り出すモンスターの弟のようです。

れること、なめまわすことで世界を知ろうとする原初の衝動を、いつも忘れずにいたいものです。


February 1999
今福龍太

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